店の名前は「すし亀」という。階段を上がると左手に引き戸がある。女将さんとおぼしきご婦人と帰り際の客が話しているので、引き戸の外で店内のようすをうかがい、出て来た客と入れ替わりに入店した。今治での辛い記憶がちょっとだけアタマをよぎったが、「いらっしゃい」という言葉をかけられほっとする。すかさず食事をしたいのですがと言ってカウンターに座る。女将さんもご主人も、そしてもうひとりの若い女性も違和感を示さず再度ホットする。飲み物は申し訳ないけどお茶にして適当にお料理を出してくださいと言ってみる。ほんとに今治の居酒屋がトラウマになっているのだ(苦笑)。
まずお決まりの突き出しは、岡山では「のれそれ」と呼ばれるアナゴの稚魚と黒ナマコの酢の物とサラダ。アナゴの稚魚は酢味噌でいただく。ウナギの稚魚は食べたことがあるが、アナゴの稚魚はこの年になるまで食したことがない。何とも言えない不思議な食感だ。全身が透き通っていて骨まで見える。黒ナマコも岡山名物らしい。地元の人には珍しくないのだろうが、東京でおいしいナマコ酢を食べようと思ったら高級店でないと無理だ。こりこりした食感がたまりらず、おかわりしたいくらいだ。
写真を撮り忘れた牛すじと野菜の煮物をいただきながら、お隣のカップルが食べていたかぶとサワラの茶碗蒸しをリクエスト。このお料理が今夜の唯一のあたしのリクエストであとはすべてご主人と女将さんで見繕ってくれた。茶碗蒸しが出てくるまで少し時間がかかるが、ご主人のお話に引き込まれてしまいほんとに時間が経つのを忘れてしまいそうだった。店内には4000匹以上の亀がいるらしい。日本の物もあれば舶来品もあり、亀コレクションとしては知る人ぞ知る有名店らしい。箸置きも亀で、この箸置き実は1匹お土産にいただいた。
岡山と言えばさわら料理が有名だが刺身を食べるのははじめてだ。ご主人が「東京の人にはどうかなぁ」と言われたとおり軟らかい。軟らかい故にこのくらいの厚みに切るそうだ。醤油も地元のものらしい。あたしは東京人なのでわさびを付けて食べるが月並みですがうまーい。ブリ大根はブリのカマの部分を使い大根葉の緑が彩りよく柚子も香る。大根はよく醤油の色がついてあたし好みのやわらかすぎず味しみよしでした。
そして待ってましたかぶとさわらの茶碗蒸し。茶碗蒸しといっても玉子ベースの出汁ではなく醤油味だ。すり下ろしたかぶの団子とさわらを出汁で蒸したもので、醤油の香りが何とも上品で深い味わいだ。これは絶対おすすめだが、毎日仕込むのかどうかは不明だ。でも、同じ物がない場合は別のおいしいメニューが用意されているはずだ。ご主人の数々の海外旅行の話や亀の話を聞いているとあっという間に時間が経ってしまった。そろそろホテルに戻らなくてはならない時間なので、最後に握りを3種類2貫づつ握ってもらった。これもおまかせだが、まずシャコ。煮詰めはぬられていなかったのであえて問わずそのまま味わった。シャコが水っぽくなくて(そんなのあたりまえだろうが)、こんなシャコ久しく食べてない。厚みも半端じゃない。下のシャコの握りのバックにカウンターにディスプレイされたコレクションの亀が写っている。
それからハマチのカマと赤貝をいただく。かなりお腹いっぱいだったが、シジミのみそ汁の大盛りが出された。赤だしではなく中国地方特有の甘めの味噌だ。お酒をいただかなかったあたしは、最後に特別にコーヒーを入れていただいて、女将さんが階段の下まで見送ってくださった。お値段もとてもリーズナブルで、ほんとにすばらしい孤独のグルメでありました。岡山名物いろいろあれど、すし亀さん自体が岡山名物でしょう。こういうお店は不況知らずなのでしょうねぇ。今度は是非誰かを連れて行きたいな。
すし亀
岡山県岡山市駅前町1丁目10-29 (駅前通商店街)
086-223-8964
OPEN 17:00~
定休日 日曜日